12月18日 電子政府プロジェクト抜本見直しの方策(第11回)―地域コミュニティの再生③―
富山県南砺市や岩手県紫波町だけでなく、ITを活用した地域コミュニティ再生の試みは、全国に広がっている。政府が構想している電子政府プロジェクトは行政手続きと事務管理の電子化。これと市町村の電子自治体への取り組みを比べると、両者の間には大きな溝が横たわっている。中央集権と地方分権の乖離がほの見える。
オープンシティの発想
東京・新宿からJR中央線・大月で富士急行線に乗り換える。河口湖に向かって田野倉、禾生、赤坂、都留市、都留文科大学前、十日市場、東桂と続く各駅停車の7駅は、すべて都留市内にある。――市域は広いのですが、居住地域は河口湖を水源とする桂川に沿った南北に伸びる平地部に集中しています。このため大月寄りの田野倉、禾生地区と河口湖寄りの東桂、十日市場地区の人たちは交流する機会がなかったんですね。
こう話すのは廣瀬光男氏だ。同氏は山梨県庁企画課長として企業誘致に手腕を発揮し、1996年4月、甲府市にジインズというITコンサルティング会社を設立した。都留市から「住民の交流を活発にするいい方法はないだろうか」と相談があったのは、会社を設立した直後だった。都留市は同氏の企画力に期待したのだ。
たまたま市がホームページの作り直しを計画していることに廣瀬氏は着目した。既存のホームページは市民からのアクセスが少なかった。もっと利用してもらうにはどうすればいいか、という相談でもあった。
―それなら市民が情報を交換できる仕組みを入れたらどうか。市役所からのお知らせはその中の一つ、という位置づけにして、主体を市民に置く。住民票は移していないかもしれないけれど、都留文科大学の学生さんにも参加してもらう。地域の情報を市民が発信する「オープンシティ」にしてはどうか、と提案した。
ホームページの雛形を用意
パソコンにもインターネットにも触れたことがない市民が参加できるようにするために、ホームページの雛形を用意した。文章と写真、図などを用意してはめ込んでいけば、ホームページができる。地域ボランティア団体の活動や不要品交換会の開催案内、少年サッカークラブ、学校の催し、お年寄りの同好会……が「オープンシティ」に参加、その運営を担うNPOとして都留市町づくり市民活動支援センターが発足した。サーバーの運用やコンテンツの作成に都留文科大学が参加する「官・民・学」の体制ができた。
不要品の交換によって廃棄物が減り、一人暮らしのお年寄りへの声がけが自然に行われるようになった。急峻な清流を利用して、水車で発電するアイデアも生まれた。居住区ごとに分断されていた住民の交流が活発になり、「町づくりをやるのは自分たち」という意識が高まった。
都留市とジインズが開発した市民コミュイティサイトの仕組みはパッケージとして製品化され、東京都杉並区、神奈川県逗子市、大阪府枚方市など10を超える自治体で稼働している。市町村にとって地域コミュニティの再生がいかに重要な課題となっているかを物語る。
地域を越えたコミュニティ
愛媛県新居浜市は、地域の情報を住民の携帯電話にメールで配信するシステムを運用している。大雨で道路が冠水している、土砂崩れが発生した、といった緊急情報を、住民が携帯メールで送ってくる。その情報がただちに市民に伝えられる。同市の携帯メールシステムの特徴は、メールアドレスを登録した人すべてが情報の発信者であり受信者である点だ。新居浜市内の工場に通勤する近隣市町村の住民、大阪や東京で暮らしている出身者も参加できる。その効果が端的に示されるのは「太鼓祭り」だ。飾り立てた大太鼓の神輿が地区ごとに繰り出し、街中に勇壮な太鼓の音が鳴り響く。携帯メールで祭りを知った人、故郷を思い出した人が参集し、祭りのとき、市内の宿は満員になる。
湯の町・別府市は温泉のイメージとリンクした地域通貨「泉都」(セント)、「湯路」(ユーロ)で知られる。地域通貨の発行元は「あちち銀行」と遊び心が盛り込まれているが、ねらいは地域コミュイティの再生と活性化だ。川や道路の清掃に参加すると100泉路、観光案内と地元を知る勉強会を兼ねた「散歩」に参加すると100湯路。貯まった地域通貨で温泉施設が利用でき、地域の商店で買い物ができる。
泉都、湯路にならってスタートした阿蘇市の地域通貨「Grass」と等価交換できるようになったのをきっかけに、別府市と阿蘇市の市民交流が始まった。湯布院町の「yufu」、日田市の「カレイ」、沖縄県浦添市の「察度」などとも等価交換できるようにしよう、という構想もある。地域を越えたコミュニティが形成され始めた。
行政管理でなく住民主体
このような市町村の取り組みに共通しているのは、「主体は住民」という考え方だ。上から目線でなく、住民と同じ目線で発想し、行政が住民の土俵に乗った。そこには「管理」の発想はほとんどない。ほとんどない、というのはセキュリティやプライバシーの確保、情報の真偽確認、誹謗中傷の排除といった管理は、行政側の責任として実施しているという意味だ。これに対して政府が推進する電子政府プロジェクトは、「住民(国民)が行う行政手続きや届出を簡素化する」→「それによって煩雑さを解消し待ち時間を短縮する」→「結果として行政サービスが向上する」という理論で構築されている。だが、それを求めているのは誰か、という根本が抜け落ちている。
地域の自治力を強めようとする市町村、管理を強化しようとする中央省庁。両者の間の溝は深く大きい。
(以下次号)
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