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電子政府プロジェクト 抜本見直しの方策(第10回)―地域コミュニティの再生②―

 東北新幹線・北上から在来線で盛岡方面に20分ほど。降り立った紫","波(しわ)中央駅は野菜や漬物の産直センターを兼ねていた。駅の清掃や切符の販売は産直センターの市民ボランティアが行っている。「昔から町役場より市民団体の方が強いんです」と産直センターの職員が言う。岩手県紫波町の地域コミュニティを紹介する。

駅を誘致したのも市民団体

 紫波町は岩手県盛岡市の南に位置し、人口は3万5,000人ほど、果実栽培と全国有数の糯(もち)米の産地でもある。この町を南北に貫くJR東北線には、以前は町域南の「日詰」駅のみだった。戦前から「中央部に駅を」という要望が強かったが、市民が町役場に何度かけあってもなかなか実現しなかった。「これでは埒が明かない」と市民が運動を起こし、駅舎を町が建設し市民団体が運営することでJRと合意することができた。こうしてできたのが現在の紫波中央駅というわけだ。
 駅前に広がる住宅は、駅舎ができた1998年以後に造成された分譲地だ。町役場はここから歩いて20分ほど、国道4号線のバイパス沿いにある。一見すると古い鉄筋の校舎だ。事務棟が3方に伸び、上空から見ると「人」の形になっている。
 ――まず、「人」ありき、というコンセプトを示しているのですか?
 と訊ねると、情報政策室長・佐藤三津彦氏は
 ――あ、それは気がつかなかったな。いわれてみれば、たしかに人の形ですね。
 と苦笑した。
 ――駅を誘致したのは市民団体だったそうですね?
 ――そうなんです。この町はむかしから市民活動が盛んでして。
 3万5,000人の農村地帯であるにもかかわらず、NPO法人が6つ、その他に農業、商業、工業の経営者の集まり、趣味や地域清掃など市
民の自発的な集まりが数多くある。
 「電子自治体が課題になったとき、こうした市民の活動を取り込めないかと考えたんです。なぜかというと町役場は公共管理と行政サービスを担う機能に過ぎず、面としての紫波町は、住民の日ごろの活動によって支えられているからです」
 と佐藤氏は言う。

地域ポータルでリソースを把握

 管理系のシステムをことさらに更新する考えは持たなかった。日立情報システムが製品化した窓口業務処理システムはそのまま継続利用とし、予算を地域ポータルの構築に振り向けた。インターネットのWeb検索で「紫波町」と入力すると、現われるのは町役場のホームページではない。最初に《ポータル紫波》が表示され、そこから市民団体や商工会、町役場のホームページに入って行く。
 実はその仕組みを作ったのが佐藤氏だ。岩手大学と連携して住民向けのパソコン教室を立上げ、それを運営するNPO法人を設立した。旧国道4号線沿いの商店街の空きスペースを利用して、そこに中古のパソコンを10台ほど並べた。内蔵しているOSは起動するときだけ使い、あとはインターネットで岩手大学のサーバーにアクセスして利用する。擬似シンクライアント方式のパソコン教室では、日中は大人がキーボードやマウスの操作を学び、午後3時以後は学校帰りの子どもたちで満員になる。
 もう一つ、佐藤氏が手助けしたのは“市民活動を支援するNPO”「ゆいっとサロン」だ。町の中でどのような活動が行われているのか、どうしたら活動組織とコンタクトできるのか、こういうことを始めたいのだが主旨に賛同してくれる人はいるだろうか……等々、住民からの問合せに応じ、個人と個人、個人と団体、団体と団体を引き合わせる。事務所は役場庁舎の裏庭に建つレトロな旧庁舎2階に入居しており、佐藤氏と密接に連携できる。
 ――こうした活動を通じて、地域に存在している地域運営のためのリソースが把握できた。円滑に行政を運営して行くには地域住民の協力が欠かせないけれど、他の市町村では地域のリソースを正確に把握していないかもしれない。

欠かせないERMの考え方

 電子政府プロジェクトに欠けているのは、まさにこの視点だ。国の機関であれ、都道府県・市区町村であれ、所管の域内にどのようなリソースが存在しているかを把握しないまま、IT化に着手してしまう。その典型は地域の安全・安心の確保と防災対応だ。ITを駆使してどんなに素晴らしい避難誘導計画ができても、現場の被災者を救出・援助するのは人。「自助・互助・公助」の原則に立ったとき、行政はバックアップの役割が中心にならざるを得ない。電子政府システムだけで被災現場にノコギリやジャッキが配置されるわけもなく、水やオニギリが届くはずがない。
 紫波町のNPOや市民団体はこれまでに述べてきたパブリック・ドメインを構成する重要なファクターだ。行政機関としての町役場は地域運営に必要なERM(Enterprise Resourcr Management)の役割を担い、地域のリソース(ヒト・モノ・カネ)の有効的な組み合わせを促進する。それぞれが持分(守備領域)を守り、干渉しない距離を保ちつつ緩やかに連携する。地域行政のIT化には、現場目線に立ったERMが欠かせない。

(以下次号)

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